この記事では、社会人として働きながら玉川大学通信教育課程で博物館学芸員資格を目指し学んだ体験をまとめています。「社会人でも博物館学芸員資格を取れるか」「どの大学がよいか」「仕事と両立できるか」といった疑問に、できるだけ具体的にお伝えします。
なお、このブログの情報は2025年時点の情報です。最新の情報は各大学のホームページなどで確認お願いします。
博物館学芸員資格とは
博物館学芸員は、博物館・美術館・科学館・動物園・水族館などで、資料の収集・保管・調査・展示を担う専門職員に必要な国家資格です。
取得に必要なのは大学での9科目・19単位(博物館実習含む)です(文化庁サイト)。大学の通信制教育課程であれば、働きながら取得でき、大卒者(3年次編入・科目履修生)であれば最短1年で取得することも可能です。

必修科目
9科目13単位(博物館概論・博物館経営論・博物館資料論・博物館資料保存論・博物館展示論・博物館情報メディア論・博物館教育論・生涯学習概論・博物館実習)です。各大学・短大で科目名は共通です。
| 科目名 | 単位数 |
|---|---|
| 生涯学習概論 | 2 |
| 博物館概論 | 2 |
| 博物館経営論 | 2 |
| 博物館資料論 | 2 |
| 博物館資料保存論 | 2 |
| 博物館展示論 | 2 |
| 博物館教育論 | 2 |
| 博物館情報・メディア論 | 2 |
| 博物館実習 | 3 |
選択科目
大学ごとに指定された選択科目(多くは2系列4単位程度)です。大学によって開講科目は異なるようです。玉川大学は考古学・西洋美術史・日本美術史・自然科学史・文化史・民俗学入門 から3科目6単位分選択でした。
わたしは考古学・西洋美術史・日本美術史を選びました。考古学は興味があったため即決。残り二つをどれにするか悩みましたが、アートをさらに楽しむためには基礎的・体系的な知識も必要だと考え、西洋美術史と日本美術史にしました。

私が資格取得を目指した理由
2年近くインバウンド向けの英文記事制作を行う中で、博物館・美術館を扱うコンテンツに関わる機会が増えました。そのとき、学芸員資格を持つライターの記事は調査の深さと質が明らかに違うと感じました。そこで、体系的な知識を持って校正・制作に臨みたいという動機が出発点です。加えて、子育てが少し落ち着くタイミングであったこと、フルリモートワークで時間の融通が利いたことも背中を押しました。
記事作りに奮闘していた様子は下記記事からどうぞ。

また、イギリス・ロンドン旅行で大英博物館とナショナルギャラリーを訪れる機会がありました。壮大なコレクションとその歴史を目の当たりにし、もう少し深く学びたいと強く感じました。
じっくり考えていたら2025年4月の春入学の願書出願の時期は過ぎており、2025年10月秋の入学となりました。出願には卒業した学校の証明書を取り寄せる必要があったり、志望理由書など書類準備の必要があります。結果的にはじっくり準備できたので10月入学でよかったと思います。

大学の比較と選び方
学芸員資格が取得できる大学・短期大学は全国にあり、通信教育課程を設置している大学も複数あります。詳細は、文科省まとめサイトをご覧ください。
※費用・日程は年度により変更あり。最新情報は各大学公式サイトをご確認ください。
わたしは当時フルタイムで働いていたため、最初から通信教育課程のある大学に絞り、玉川大学、京都芸術大学、八洲学園大学の3つに絞って検討しました。
私が玉川大学を選んだ理由
決め手は2点です。
1つ目は博物館実習先の確保。博物館実習の受け入れは、博物館側にとって通常業務に加わるボランティア対応のようなもので、つてもコネもない社会人が自力で開拓するのは難しいと判断しました。玉川大学と京都芸術大学は大学側が実習先を用意してくれます。
2つ目は夜間オンライン授業がないこと。八洲学園大学は夜間のオンライン授業への出席が必要で、仕事終わりに毎日参加し続けるのは現実的ではないと感じました。
京都芸術大学は長野県での実習が数日あり、家庭の事情から数日間でも遠方滞在が難しかったため、最終的に玉川大学に決めました。玉川大学は東京都町田市にあり、新宿から約40分です。
| 玉川大学 | 京都芸術大学 | 八洲学園大学 | |
|---|---|---|---|
| 最安費用(資格のみ) | 約20万円(3年次編入) | 約46万円(科目等履修生) | 約21万円(科目等履修生) |
| スクーリング | 東京・町田 | 京都または東京 | 完全オンライン(横浜も可) |
| 博物館実習 | 学内実施(自己開拓不要)/東京 | 学内実施(自己開拓不要)/京都・東京・長野 | 自己開拓が必要 |
学習の進め方
通信制教育課程の学習は基本的に独学です。わたしは下記のような流れで勉強していました。
- テキスト・担当教官作成の学習指導書を読み、シラバスに沿って学習内容をノート(大学プラットフォームまたはワード)にまとめる
- レポートを作成・提出
- 大学ポータルで添削結果を確認し、必要に応じて再提出
- 科目試験をオンライン受験(Webカメラ使用で顔認証あり)
後述しますが、このほかに、博物館4館の見学レポートの作成と博物館実習(スクーリング)5日間があります。

1科目あたりの学習時間の目安
レポート課題はシラバスに掲載されていますが、レポートを書くためにはまず基礎知識を学ぶ必要があります。通信課程の場合、通学で学ぶ分90分×15回分の講義内容の学修を自分で進める形になります。私の場合、まず基礎知識を学ぶのに1科目あたり約1カ月かかりました。「博物館概論」「生涯学習概論」「教育学概論」など、用語が馴染みのない科目は、ノートや用語集をまとめるだけでも時間がかかりました。

例えば西洋美術史を例に挙げます。
レポート課題は二つあります。そのうちひとつは「1800年以前の作品を1点挙げ、文化、社会、宗教、思想、科学などの関連性から考察を行う(Word,2000字程度)」です。このレポートを書くためには、まず1800年以前の西洋美術史の流れを把握する必要があります。さらに星の数ほどある作品から1点選ぶ必要があります。さらに、当時の文化、社会、宗教、思想、科学なども調べる必要があります。このため、このレポートを書くまでに西洋美術史の大まかな流れを自分で整理し、そのうえでレポートを書く必要がある、ということです。
もちろん、いきなりレポートを書けば時間短縮になり、もっと効率よく単位が取得できたかもしれません。しかし、「博物館学芸員資格の取得を目指し、深く学ぶために」大学に入学したわけです。「どうやったら効率よく単位が取れるか」というより「どうやったら深く学べるか」が大切なのです。
西洋美術史のレポート課題の作品選びに関して、ゴッホ、モネといった日本で人気の巨匠画家は豊富な文献があり、手に入りやすいです。しかし、それでは楽に書けてしまい、学びが深まりません。さらに、自分の知識や調査の浅さがすぐにわかってしまう。せっかくなら、西洋美術史で重要な役割を果たしつつ、そこまで日本では有名でない作家を取り上げたい。
最終的に、わたしは北方ルネッサンスの代表的画家、ピーテル・ブリューゲル(父)の「雪中の狩人」を取り上げました。自分の力の限り、入手出来る限りの文献調査を行いました。レポート作成途中、「もっと有名な画家にすればよかった」と思うこともありましたが、渾身の力を振り絞った結果、教授からの評価もよかったです。

西洋美術史は12科目のうちの一つにしかすぎません。他の教科のレポート作成も基本的には同様です。シラバスにはある程度の指針は書いてありますが、学修範囲は膨大で、自分の学び方の方向性が正しいのかどうかはわかりません。時にはくじけそうになったり、手を抜きたくなることもありましたが、何とか奮い立たせてがんばりました。
試験について
(2026年に玉川大学では通信課程の試験方法が改訂となりました。詳細は玉川大学の情報をご確認ください)
年に9回試験の機会があります。玉川大学の場合は、試験を受験する前にレポートを提出している必要があったため(今後変更の可能性あり)、レポート提出と試験受験の計画を立ててから勉強を開始しました。学期末は申込が集中すること、単位認定が年度末ギリギリになってしまう可能性があるため、万が一試験に落ちても問題ないように、少し前倒ししで計画を立てるようにしていました。
在学当時(2025年~2026年)は通信制教育課程の試験はオンラインプラットフォームでの顔認証確認のうえ自宅で受験、教科書・参考文献持ち込み可能でした。
試験は50分。答案提出が試験時間締め切りに間に合わないと再受験(不合格)となります。また、答案提出時に顔認証の判定OKになっていないと再受験(不合格)となります。自宅で受験できるといっても、インターネット回線が落ちたり、顔認証が判定NGになったら終わりなので緊張しました。

毎日の勉強時間
大学の通信制教育課程で学芸員資格取得を目指す方は社会人の方や日中忙しい方が多いと思います。実際、スクーリングで出会った方も日中はお忙しい方がほとんどでした。
わたしも平日日中は仕事でしたので、夕食後の夜間または土日に集中して学習していました。土日は博物館や美術館に出かけ、できる限り見識を広めるようにしました。早朝や昼休み時間に勉強しようと試みたこともありましたが、自分は多数の参考文献を参照しながら勉強するスタイルだったので現実的ではなく、平日夕食後と土日を勉強時間に当てました。
インターネットで調べ物をしているつもりがつい関係のないサイトを見てしまったり、疲れてしまい集中できなくなってしまったりすることもありました。子どもはInsta封印、わたしはSNS封印、と、高校生と中学生の子どもたちと励まし合い、勉強を頑張りました。

博物館見学調査:10カ月で36館
学芸員資格の学習では、実際に博物館を「研究する目」で見学することが重要な学びになります。玉川大学では、博物館実習前に4館のレポートを提出する必要があります。私は2025年8月から2026年5月の約10カ月間で35館を訪れ、そのうち4館についてレポートを提出しました。
訪問館(一部):国立民族学博物館、東京国立近代美術館、三内丸山遺跡センター、青森県立美術館、坂の上の雲ミュージアム、国立西洋美術館、江戸東京たてもの園 など
博物館レポートの調査項目は多岐にわたるため、1回では調査が終わらず複数回同じ博物館を訪れることもありました。近場の博物館を何度も訪れて博物館を見る目を養うとともに、旅行先では必ず博物館や美術館を訪れるようにしました。そして、博物館の種類が偏らないように、時には東京都心や国立の大規模博物館・美術館も訪れるようにしました。
訪れた博物館をまとめてみたところ、やはり時間的、金銭的に許容範囲の近場で公立の博物館を多く訪れていたようです。今後は私立の博物館や美術館も訪れていきたいです。

報告書を提出した4館
報告書を提出したのは下記の4館です。

造幣さいたま博物館(埼玉県さいたま市)
硬貨の製造プロセスと戦時中の貨幣製造の歴史を調査。「貨幣の健康診断機」「一円玉と背比べ」(100枚で2メートル)など体験コーナーが充実。ポケット学芸員(日・英・中・韓対応の音声解説)も導入されており、ユニバーサル対応が進んでいる施設です。工場見学との連携による展示の深化が今後の課題として見えました。
埼玉県立歴史と民俗の博物館(埼玉県さいたま市)
大名の菩提所と墓を扱う特別展と常設展を調査。建築家・前川國男設計の建物は公共建築百選に選定されています。この館の特筆すべき点はキャプションです。文字量・情報量・わかりやすさのバランスが優れており、離れた場所の関連資料を紐づける丁寧な工夫が随所に見られます。十二単着装体験のボランティア対応も印象的でした。
坂の上の雲ミュージアム(愛媛県松山市)
安藤忠雄氏設計の逆三角錐の建物を回遊しながら、司馬遼太郎『坂の上の雲』と明治時代を学べる施設。主人公たちのセリフがフォント・色を変えた文字パネルとして宙吊りで展示されており、視覚的にも工夫された展示手法が見られます。松山市の「まちづくりの中核」として機能しており、まちづくりのコンセプトや館の使命感が展示全体から伝わる施設でした。
東京国立近代美術館(東京都千代田区)
日本初の国立美術館(1952年開館)。明治から現代に至る日本の近代美術を俯瞰できる国内最大級のコレクションを誇ります。
ここで感じたことは、授業「博物館情報メディア論」と直接つながるものでした。テレビのドキュメンタリー番組も博物館の展示も、「何をどう伝えるか」という選択の中に制作者・機関のメッセージが宿る。展示は中立ではなく、来館者自身が批判的な視点を持って受け取ることが重要だ——そのようにレポートに書いていたのですが、訪問した企画展「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」は、歴史の記録が誰の視点で残され何が語られてこなかったかを問い直す構成になっていました。

また、ボランティアスタッフによる所蔵品ガイドに参加しました。年5回の研修・年3回の例会を経たボランティアが、高いファシリテーション技術で参加者全員の言葉を引き出しながら進める内容で、「答えを与えるのではなく問いを持ち帰らせる」という博物館の理想的な姿を体験として理解できました。
スクーリング(対面集中授業)
玉川大学のスクーリングは2月または8月に5日間連続で実施されます。1年間で学芸員資格を取得しようと思ったら、チャンスは2回ある、ということです。内容は展覧会の企画立案から実際のマット作りまで、手を動かして学ぶ実践的なものでした。
参加者の顔ぶれも多様でした。学芸員を目指して就職活動中の方、教員免許取得の一環として学んでいる方、美術館・プラネタリウムで働いている方、早期退職後に文化財補修の仕事を目指している方、企業向け対話型鑑賞研修を行っている方、都道府県の管理職の方、海外でボランティア活動をしている方など。それぞれ異なる目的を持った人たちが同じ場に集まり、同じ教科を学ぶのは、大変貴重でした。

大学入学後の変
大学入学後、ポジティブな変化がいくつかありました。
人脈・視野の広がり
スクーリングで様々なバックグラウンドを持つ方と出会い、博物館や美術館に関する視野が広がりました。教授の方とも仲良くなり、先生と学生で博物館を見学するツアーにも参加しました。60代から教員免許取得を目指してお孫さんと一緒に学んでいる方に出会い、大いに刺激を受けました。博物館・美術館を訪れた際、展示物そのもの以外に展示空間にも目が向くようになりました。
2館の公立博物館協議員に選任
さいたま市立博物館・埼玉県立歴史と民俗の博物館の公募委員審査を通過しました。面接では「博物館の指定管理者制度」と「収蔵庫問題への考え方」について問われ、これはスクーリングでのディスカッションやレポート課題でも取り組んだテーマそのものでした。大学で学んだ内容に基づき、質問にしっかりと答えることができました。
転職活動への影響
学芸員資格取得を目指していることを面接で伝えたところ、面接官ご自身が学芸員資格をお持ちで、共感を得られました。博物館実習終了まで入社日を延ばしたいという申し出に対しても「入社日が内定に影響することはありません」と言っていただき、転職活動と学業を両立することができました。

まとめ
社会人でも、大学の通信制教育課程で学芸員資格を取ることは十分可能です。もし悩んでいる方がいらっしゃったら、ぜひ挑戦していただきたいです。
もちろん、働きながら大学の勉強をするのは楽しいだけではありません。大変なこともありました。例えば、孤独感。リアルタイムに質問や情報交換できる場がありません。また、大学側に質問しても返答に時間がかかったり、成績の評価基準がよくわからないままだったりということもありました。時にはレポート返却が1か月近くかかり、忘れたころに返却され、修正に追われることもありました。社会人になってから5日間連続のスクーリングは、朝6時出発・夜7時過ぎ帰宅のスケジュールで、仕事と並行するのは体力的にきつかったです。そして、勉強時間の確保、転職活動との両立には自律と工夫が必要でした。
それでも、大学で博物館学芸員の資格の取得を目指して本当によかったと思います!
学びはいつからでも、いくつからでも始められます。これまでとは違う「学習」でつながる仲間には大いに刺激を受けますし、学生時代とは違う「学び」が得られます。さらに、自分の未来も広げることができます。
この記事が、博物館学芸員資格を大学の通信制教育課程で学んで取得しようとしている方や、今、何か始めようとしているけれど迷っている方の参考になれば幸いです。
コラム「心に埋まっていた忘れ物」
小学生のころ、「日本の歴史」のマンガ第1巻、縄文時代や弥生時代のページを何度も読み返していました。父にせがんで地元の兵庫県大中遺跡(兵庫県立考古博物館敷地内)に何度も連れて行ってもらいました。わざわざ、静岡県の登呂遺跡まで足を運んでもらったこともあります。遺跡発掘に興味があったのです。土の中に何かが眠っている、それを掘り出して歴史と向き合う仕事は魅力的に映りました。しかし、家族に冗談交じりに「遺跡発掘なんて無理無理。飽きっぽいでしょ」と言われ、わたしはそのまま夢を手放しました。高校から理系の道に進み、就職後は食品開発研究、国際事業、観光へ。そんな過去があったことは、自分でもすっかり忘れていました。
それから数十年。博物館学芸員資格の勉強を通じて考古学を学び、2026年に登呂遺跡を訪れたとき気が付きました。「わたしはここに来たことがある」。そして、一連の思い出がよみがえってきたのです。まるで、ずっと心の底に埋まっていたものがようやく掘り出せたように。
もしかしたら「あのころ諦めた何か」を持っている方。もしかしたら新しい挑戦は新たな世界を開くとともに自分の原点に光を当てる、そんな機会になるかもしれません。



